2019年4月から有休休暇の義務化が始まります。
医療機関では有給休暇の取得率が高くはありませんが、義務化されてしまった以上たとえ医療機関であっても1年間で5日間は有給休暇を取得させなければなりません。
医療事務の有給休暇の取得はクリニックの習慣によるところが大きくなりますが、普段有給休暇を取得する習慣がない医療事務の方にも関係する法改正ですので「有給休暇義務化」のルールをしっかり理解しておきましょう。
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有給休暇取得の義務化
2019年4月から有休休暇の取得が義務化されます。規模は関係なく、医療機関を含む全ての企業が対象となります。
今回義務化されるのは年間10日以上の有休が与えられている労働者ですので、フルタイムで働くスタッフはほぼ該当します。
たまに「正社員のみ」と勘違いされていることもありますが、正社員のほかにも下記のような方が対象です。
・社歴6か月のフルタイム勤務の契約社員
・社歴6か月以上で週30時間以上勤務しているパート社員
・社歴3年半以上で週4日出勤しているパート社員
・社歴5年半以上で週3日出勤しているパート社員
これにより、法人個人関係なくクリニックは社員(フルタイムのアルバイト含)に対して、1年間で5日間必ず有給休暇を取得させなければなりません。
いままではスタッフから申請がなければ特に与える必要がありませんでしたが、2019年4月からは労働者が申請しない場合はクリニックから有給休暇の取得を促さなければなりません。
有給休暇取得率の低いクリニックで助け舟になるか
ソースのない肌感覚での話で申し訳ありませんが、クリニックの医療事務の有給休暇の取得率は決して高くはないはずです。厚生労働省が発表している日本の有休取得率は50%前後※ですが、クリニックより異なるものの、この数値より低くなっているクリニックはかなり多数派です。
今まで「有給休暇を取得したいけど、みんなが忙しいのに自分だけ休みたいなんて言えない」と遠慮してしまっている方にとっては良い助け舟になるのではないでしょうか。
※厚生労働省2018年の就労条件総合調査より。
30~99人の企業では取得率44.3%なので、小規模なクリニックではこれ以下であることが予想される。
そもそも有給休暇とは?
有給休暇の取得に慣れていない方の中には、何をすれば有給休暇と認められるのかイマイチはっきりしない方もいらっしゃると思いますので、まずは有給休暇のルールを覚えておきましょう。
有休休暇取得のルールは労働基準法で定められているため、本来であればクリニックごとに取得方法が違うことがおかしな話です。本来はクリニックが勝手に社員にとって不利なルールを設定することはできません。ざっくり概要をお話しすると、
・同じクリニックに6カ月以上続けて勤務している。
・全労働日の8割以上出勤している
この2つの条件を満たすことで年10日間の有休休暇を取得する権利を得ることができます。
原則「取得したい日」を申請すれば取得できる
有給休暇を取得するには必ず「申請」を行わなければなりません。院内に規定のフォーマットがあると思いますが、万が一それがないのであれば書面にして責任者へ渡せば「申請」になります。
有給休暇をどう使うかは労働者の自由ですので、何日取得するか、取得した日に何をするかを報告する必要はありません。申請書には「私用のため」としておけば良いでしょう。
時期変更権の存在
クリニックにとってどうしても都合が悪い時期の申請は、「有休の取得時期を変更してもらう」ことは可能です。ただ、これが横行していつまでも取らせないことが問題になっていますので、乱用は避けた方が良いでしょう。
詳しくは下記の記事をご参照ください。
クリニックはどう対策を講じるべきか
法律として世に出てしまったからには仕方ありませんが、クリニックの運営側からするとこの法律は頭の痛い問題です。4月が近づくにつれて有給休暇の運用方法に関するご相談も多くなっていますので、ここから先はクリニックでの有給休暇の運用方法についてお話ししていきたいと思います。
前述の通り、クリニックでは少数精鋭で運営していることが多く、近年はどこも人手不足ということもあり、有給休暇を自由に取得されると運営が難しくなることも珍しくありません。
ではどう対策を講じるべきでしょうか。
使用目的は自由の原則
クリニックの院長先生の中には、そもそも有給休暇の認識が異なる先生もいらっしゃいます。(まだまだその数は多いと推測します)
決定的に認識が違うのが有給休暇の使用目的に関してです。「病欠など万が一の時に有給休暇を使用するのは仕方がないが、私用で取得するなどあり得ない」とお考えの院長先生も多いからです。
医師の世界では有給休暇を取得して旅行などという習慣はありませんから、おっしゃりたいこともわかります。ただ、前述の通り使用目的は自由ですので、これを機にクリーンなクリニック運営をお勧めします。
やってはいけない抜け道
ここで申し上げることは全て違反です。
もし「年間5日有給休暇を消化させなければならないといっても、このような方法でごまかせる」とお考えであれば即刻中止することをお勧めします。
院内で設定されている「特別休暇」を有給休暇にカウントする
特別休暇、リフレッシュ休暇など、名称は様々ですが、通常の休診日とは別に独自の休暇を設けているクリニックも存在します。
このような制度をお持ちですと、この休暇を有給休暇として処理したいとお考えになると思いますが、結論から申し上げるとそれは難しいです。
特別休暇の制度を中止することで休みの数を合わせる方法は可能ですが、労働者にとって不利益変更となるので行うべきではありません。
有給休暇を取らせずに買い取る
「使わせない」がダメなのなら買い取ればいいとお考えの院長先生もいらっしゃいます。運営面から考えるとこれが合法であれば助かるクリニックも多いと思いますが、有給休暇の買取はスタッフの退職時を除いて違反なのです。
年間5日取得させなくてもバレない?
私のまわりでは「クリニックなど小規模な組織ではバレにくい」という噂も流れていますが、結論から申し上げるとそれはかなり乱暴な論理であるように思えます。
今回この「年間5日有給消化ルール」はあちこちで話題になっていますので、多くのスタッフが認識していることが考えられます。そのような状況下で「有給が取れなかった」と労基署に駆け込まれる可能性は決して小さくないのではないでしょうか。
たとえバレなくても、社員は本来取れるはずの有休を取れず、常に労基署のペナルティーに怯える誰も幸せにならない事態が待っているだけです。
クリニック管理者はどうすればいいのか?
クリニックが取れる対策は次の2つです。
①個別での管理
②計画年休の導入
どちらも取得日数を減らすような裏技ではなく、どのように管理するか、その手間をいかに減らすことができるかという内容です。
①個別管理
スタッフごとに有給消化日数を定期的に確認する方法です。
期日が近づいても有給消化日数が5日未満のスタッフにはクリニックが有給休暇取得日を指定します。
メリットとデメリット
クリニックとスタッフの話し合いで指定日を決めるため、クリニックの状況が急に変わっていたとしてもそれに対応できます。
反面、有給休暇を取得しやすい環境を整えていかないと、多くのスタッフが同時に有給を取得せざるを得ない状況になる危険性があります。
スタッフごとに消化日数の管理に手間がかかり、「1年」という期限を忘れずに適切な時期に話し合いを設けなければならず、忙しい現場では管理の漏れが出てくる可能性があります。
②計画年休制度を導入する
「計画年休制度」はクリニックが従業員代表と労使協定を行い、各従業員の有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ日にちを決めてしまうことができる制度です。
文章でお伝えするとやや難しいですが、計画年休制度で有給休暇を1年で5日以上付与すれば、遠慮して有給を取得してくれないスタッフがいても、5日取得したことと同じになります。
メリットとデメリット
計画年休制度を用いると下記のようなことが可能です。
・全スタッフの有給休暇を特定の日に設定する
・同時に休暇を取得するスタッフを調整する
・スタッフごとに1人ずつ違う日に有給休暇を設定する
年間で設定するため個別の管理は必要ありませんし、例えば比較的閑散期の1月や2月に集中して有給を取らせたり、年末年始の休暇を延長し、延長分を有給として消化させることも可能です。
ただし、労使協定を行わなければならないのでこちらに手間がかかることと、設定した日にちを後からクリニックの都合で変更できないデメリットがあります。
また、計画年休を行ったからといってスタッフがそれ以外の有給休暇を取得しないわけではありませんので、個別指定方式と比べ有給休暇の取得日数は同じか増えることになります。
従業員代表(従業員の過半数が加入する労働組合がある場合はその労働組合)との話し合いを行い、労使協定を締結することが必要です。
書面に残して院内で保管すれば役所への届出は必要ありません。
どの方法を用いるべきか?
個別方式と計画年休制度のどちらで運用するかはケースバイケースですが、スタッフの平均有給休暇取得日数が年間で5日以上ないし5日に迫るのであれば個別方式、大きく下回るのであれば計画年休制度を用いるのが、クリニックの管理による負担が増えない方法です。
ただし、計画年休制度を用いた場合は、個別指定方式と比べ有給休暇の取得日数は同じか増えるため、そもそもスタッフの有給休暇の取得数は最低限でコントロールしたいと考えているクリニックには不向きと言えます。
まとめ
本来有給休暇は希望通りに取得できる環境が理想ですが、最低年5日の消化という新しい法律ができたことで、まずはこの5日を消化できる環境があるかが労働環境面でのチェック項目に加わります。
「運営に支障をきたす」と努力を放棄せずに、新しいルールに対応していくことが労働環境の改善につながり、結果良いスタッフが長く勤務してくれるクリニックになると信じています。