「御机下(ごきか)」「御侍史(おんじし)」どちらも主に医師宛で使用される「脇付」で、医療業界では頻繁に使用されています。
これらを使用するのは紹介状を含む医師へ手紙を書く際に必須と言えます。医療業界で働く方にとって避けては通れない言葉です。
医療事務として働いていても、読み方や意味、使い方を勘違いしていることがありますので、医師へのマナー違反を避ける為にも意味や使用方法を理解しましょう。
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御机下の読み方と意味
「御机下」は「ごきか」または「おんきか」と読みます。
・個人に尊敬の念をこめてお呼びするときに使用します。
・医師宛の手紙では「○○先生 御机下」のように「先生」の後に書きます。先生を抜かしてはいけません。
・個人が特定できている場合に使用するのが正しいとされています。
直訳すると「直接お渡しするのも恐れ多いものですので、机の下に置かせていただきます」とよくわからない表現になってしまいますが、要するに「机の上に置くほど重要な書状ではございません」という意味です。
「机の下に置く」という表現に違和感がありますが、それだけへりくだった表現で「読みたい時にお読みいただければ十分でございます」と言っているのでしょう。
「御枕下」は間違い
・「御枕下」も間違いです。「枕(まくら)」ではなく「机(つくえ)」ですので注意してください。
御机下を使用しても普通の手紙として扱われる
「御机下」を使用することで手紙の優先順位が低くなることはありません。
また、文字通りに扱われてしまっては、医師の机の下は常にお手紙だらけですが、そのような扱いをされることはありません。
医師は医療業界で最高峰の資格ですので、尊敬されていることを垣間見れる表現でもあります。
紹介状で御机下を使用する時改行は?
(2016.9.13 追記)「紹介状を作成する際の改行位置」についてご質問いただきましたので、追記しておきたいと思います。
改行位置は下記の通りです。
医療法人社団〇〇会 〇〇病院
〇〇科 〇〇先生 御机下
医療法人社団〇〇会 〇〇クリニック
院長 〇〇先生 御机下
その他にも医療業界特有の言葉遣いがあります。
御侍史の読み方と意味
「御侍史」は「おんじし」と読みます。「ごじし」でも良いようですが、「おんじし」が一般的に使用されています。
・御机下と同じく、尊敬の念をこめてお呼びするときに使用します。
・「御机下」との大きな違いとして、個人宛でも、個人がわからない場合(「担当医 先生 御侍史」など)でも使用できます。
侍史は秘書と解釈
御侍史の「侍史」は秘書のような仕事をされる方のことで、昔は高い位の方の多くにこの「侍史」がいらっしゃったようです。
「〇〇先生 御侍史」とすることで
という意味になります。
もう少しかみ砕いて言うと「私の手紙などご本人が直接読まなくても、侍史の方から『YASUさんから手紙がきました』程度に伝われば十分でございます」というようなニュアンスです。
医師には日々大量の手紙や書類が届きますので、「手紙が来ました」の一声では読んでもらえそうにありませんが、御机下と同じく、御侍史を使用しても直接ご本人へ届くので心配はいりません。
御待史・御史侍は間違い
御机下と同じく御侍史も間違って記載されることが多いので気を付けてください。
・「御待史」(これでは「おんたいし」です・・・)※正しくは「待」ではなく「侍」です。
・「御史侍」(おんしじ・侍と史の位置が入れ替わっています。)という書き間違いも見かけます。
御机下より派手に間違える方が多い印象があります。
読み方や漢字を間違えただけで大きなトラブルになることはありませんが、医療事務としては恥ずかしい間違いの1つです。正しい知識を身につけましょう。
「拝」はつけるべき?
「田中(仮名)先生 御侍史」と宛て、差出人の名前の最後に「拝」を記入すべきかという質問を頂いたので追記します。
署名の後に「拝」と記載するのは、紹介状等で時々見かけはしますが、個人的にはあまり見かけませんので一般的ではない印象です。一方で「記載することで丁寧な印象を与える」「敬意を示すことができる」とおっしゃる方もいらっしゃるので、義務ではないがつけても良い程度のものだと考えてください。
「御侍史」という脇付を付けて手紙をしたためる行為は慣例となっており、その意味も理解せずに使用している医療事務は多いと思いますが、敬意を伝えるつもりで「拝」と記載するのであれば、その敬意を伝えることができるレベルになりましょう。
「書いておけばカッコイイ」程度であれば書かなくてよいということです。
あて先が医師以外でも御侍史を使用する?
医療事務の立場から医療関係者以外に手紙を出す機会はそう多くはありませんが、クリニックの医療事務ですと弁護士の先生へ書類を郵送するケースはあります。
弁護士相手でも「〇〇先生御侍史」とするかたもいらっしゃるようですが、弁護士の先生から見た場合クライアントになる立場から「御侍史」を使用するのは、本来の意味から考えても違和感があります。
「〇〇先生」とすれば失礼にはあたりません。
女性の医師宛でも使用して良い?
意味をご理解いただいていれば問題ないことはわかると思いますが、最近質問をいただいたので念のためお答えしておきます。
メールで御侍史は使用しない方が良い
先述のように「侍史」は秘書のような役割の方です。Eメールはご本人に直接届くものですので脇付は必要ないと考えます。
本来の意味から考えると、宛先の先生に専属秘書がいらっしゃる場合は考えどころではありますが、Eメールにおいて御侍史が書かれていないことで印象が悪くなることはありません。
詳しくは下記をご参照ください。
御机下と御侍史の違い
御机下と御侍史の違いが気になるところですが、医療業界では明確な使い分けのルールはありません。
どちらを使用するかを指摘する医師はかなり稀ですので、医療業界における違いはないと考えても良いのですが、あえて違いを申し上げると2つあります。
①侍史を通しての連絡か、直接机の下に届くのか
②御侍史は個人宛でも「担当医 先生 御侍史」のように相手がわからなくても使用できるが、御机下は個人宛のみに使用できる。
また、総合病院の幹部クラスの医師など、秘書がいらっしゃることがわかっていれば「御侍史」を使い、それ以外医師へは「御机下」を使用するといった気の使い方はできます。
業者からの手紙は御侍史が使用されている場合が多い
業者から医師宛のビジネス文書では「御侍史」が使用されるケースが多く、「御机下」を使用されているケースはあまり見かけません。
医療業界では使い方が詳細に分けられている訳ではありませんので、紹介状などに記載する際はどちらを使用しても問題はないのですが、業者からの手紙の多くに御侍史が使用されているのは、外部からの書類は、侍史の方が一括管理していたからではないかと考えています。
※下線部は私の予想です。
YASU流!御机下と御侍史の使い分け
(2016.9.13 追記)ではYASUさんは御机下と御侍史をどう使い分けているんですか?という質問をいただきましたのでお答えしておくと、私はほとんどの場合で「机下」を使用することにしています。
侍史より机下を使用する理由
御侍史・御机下はともに医師へ宛てた書面で使用しますが、侍史(秘書)がいらっしゃる医師は一握りです。また、仕事上、書面での連絡は、医師個人宛であり、「机下」を使用するのが本来の意味から考えても正しい使い方だと自負しています。
御机下と御侍史の共通部分
どちらにも言えるのが、古い表現であり、自分より格上の方宛に強い謙遜を表していることです。
また、どちらもほぼ医療業界でしか見かけない表現ですが、医師専用でも、医療業界のみの言葉でもありません。
少しだけ医療事務経験がある方の中には、「様」より丁寧な表現だと考えている方もいらっしゃいますが、一般的な表現とは言えませんので、誰にでも「御机下」や「御侍史」を付ければ良いというものではありません。
医療事務の方は、医師宛の手紙のみに使用するようにしましょう。
御中との併用は不可
御机下、御侍史、どちらにも言えることですが、団体の敬称といわれる「御中」とは併用できません。
院長 田中 太郎 先生 御机下
この表記は間違いですので注意してください。御中に関してはこちらに詳しく記載しています。
「使えばより丁寧になる」は間違い
「強い謙遜を表している」というお話は先述の通りですが、誰にでも使用すれば良いというものではありません。
御机下、御侍史ともに医師同士でも使用する表現ですので、医療事務が医師へ宛てる書面で使用するのは問題ありませんが、事務長様や婦長様、薬剤師の先生など、他の医療職の方へ使用しないように注意してください。
「御」をつけるのは間違いではないか?
『様」と『御』が共存することで二重敬語になってしまうため、本来は『机下』とするべきである
そもそも「御」が机や侍史を高位にしてしまっている
というご指摘もあります。(日本語難しいですね・・・)
医療業界では慣習的に「御侍史」「御机下」の形で用いられていますので、医療業界で使用する場合は「御」を付けるのが無難です。医療事務の仕事では、言語としての正しさより、医療業界としての正しさを優先するべきですが、医療業界以外で使用する際は、上記のような理由で間違った使い方だと知っていて損はありません。
医師宛の手紙は必ず御机下か御侍史が必要か?
医師の間で手紙のやり取りをする際は、「御机下」や「御侍史」は高い頻度で使用されています。
医師同士の場合は、省略されるケースもあるようですが、診療情報提供書(紹介状)など、医療機関同士でやり取りする文章に関しては、どの医療機関でも必ず使用します。
若手医師の間では「必要ない」との意見も
(2017.7.20 追記)御机下や御侍史を使用するのは医療業界の文化ですので、紹介状などの医療機関同士の場合は原則使用しなければなりません。
一方でこの文化を奨励している30代以下の医師は少数ですので、比較的若い医師宛に書面で手紙や書面で連絡を行う場合はその旨も知っておくと良いでしょう。
私の周りの若手の医師は、「脇付は必要ない」とおっしゃる方が多いのですが、私のルールでは、初めてお目にかかる先生宛の書面は、相手の年齢に関わらず「御机下」を使用することにしています。
お会いしたことがある先生宛の場合は、コミュニケーションの状況次第で使用を省くこともあります。
年賀状など他の手紙でも御侍史が必要?
「田中(仮名)先生 御机下(御侍史)」という記載は私信でも使用できます。しかし、かしこまりすぎるので私はめったに使用しません。
外の医療機関に勤めている医師宛であれば私信での使用も良いのかもしれませんが、現在お勤めのクリニックの院長先生のように、同じ現場で働いている先生であれば、そこまでかしこまる必要はないのではないかと考えます。
この場合「田中(仮名)先生」でも十分尊敬の念は伝わります。
「御机下」「御侍史」としてしまうことで事務的な印象を与えてしまう懸念もありますので、使いどころは間違わないようにしてください。
奥様と連名で送るときは
奥様と連名で年賀状を送るなら敬称はそろえた方が良いでしょう。
奥様が医師でなくても「先生」と敬称を付けるご職業であれば「先生」で統一し、そうでなければ「様」で統一するのが良いと思います。